このページでは、トラベルルール対応を送金一件単位の手順として解説します。トラベルルールは、通常、データの要件として説明されます。差出人と受取人に関する一定の情報を、送金に添えて送らなければならない、というものです。この説明は正しいのですが、あまり役に立ちません。データを添えて伝える部分は、ソフトウェアが確実にこなせる仕事だからです。
運用上の難所は、その逆、受け取る側にあります。データが欠けていたり、不完全だったり、不自然だったりする状態で送金が届きます。規則は、そのとき何をするかを自社が前もって決めていることを求めます。
単一の閾値では設定できない理由
一つの数字に対して世界共通のルールを作ろうとする事業者は、この点でつまずきます。FATFの勧告そのものは誰も直接拘束せず、義務は各国の実施法から生じます。その法律は、金額でも時期でも異なるからです。
| 管轄 | 閾値の扱い | 適用開始 |
|---|---|---|
| 米国 | 31 CFR 1010.410(f)の下での3,000米ドル | 長年の前例 |
| 欧州連合(EU) | 暗号資産の送金に金額の閾値なし。1,000ユーロは、域外へ出る資金移動の縮小データセットと自己管理型アドレスの確認に関係 | 2024年12月30日 |
| 英国 | 2017年マネー・ローンダリング等規則第7A部の下で最低額なし | 2023年9月1日 |
| シンガポール | 1,500シンガポールドルはデータセットの区切りであり、下限ではない | MASの通知による |
| オーストラリア | 新制度。新規登録対象の暗号資産サービスは繰り延べ | 2026年3月31日、繰り延べ対象は2026年7月1日 |
したがって、単一の閾値を設定するやり方では、必ずどこかの管轄で合わなくなります。実務的に機能するのは、送金の経路ごとに規則のセットを用意し、適用範囲内で最も厳しい扱いになるよう設計する方法です。
規則が実際に問う判断
必要な情報が欠けたまま送金が届いたとき、取れる対応は実行、拒否、返送、追加情報を待っての保留の四つです。規則はそのいずれかを指定しません。文書化した方針を持ち、一貫して適用することを求めています。
上のワークフローで、判定と判断の段階に人の判断が必要と印が付いているのはこのためです。上流の工程はすべて自動化できます。ここだけはできません。この判断では、顧客への影響とコンプライアンス上の立場を比較します。そのどちらの側も、データフィードではなく自社の責任だからです。
自社顧客だけでなく双方の当事者
送金には必ず二つの側があり、取引相手は通常、自社が最も情報を持たない当事者です。自社の顧客だけをスクリーニングすると、見知らぬリスクを運ぶ送金の半分が、確認されないまま残ります。
同じことは相手側の事業者にも当てはまります。顧客データを交換するということは、相手がその情報を受け取り、保護できるという見立てを含みます。したがって取引相手の評価は、一度きりのオンボーディング工程ではなく、運用の中で継続して行う作業の一部になります。
監督当局が尋ねること
尋ねられるのは、方針を持っているか否かではありません。不完全な情報のまま特定の日に実行された特定の送金が、方針のとおりに処理されたかどうかです。
これに答えるには、判断とその根拠、その時期が、判断した時点で記録されていたことが必要です。後から取引ログで再構成しても、できるのは後づけの説明であって、証拠ではありません。
規則の由来と、その背景にあるFATFの勧告については、FATFトラベルルールガイド(英語)を参照してください。EUの制度の詳細については、資金移動規則(英語)を参照してください。スクリーニングの構成要素については、PEP・制裁スクリーニングと取引モニタリングを参照してください。
